【EMPORIO ARMANI】俳優・蒔田彩珠が見据える、まだ見ぬ役の先

俳優・蒔田彩珠が見据える、まだ見ぬ役の先

マエストロ。エンポリオ アルマーニが2026-27年秋冬コレクション“Maestro”で描いたランウェイの舞台は、指揮者を目指す学生たちが集う音楽学校。道を究めた人への敬意とともに、自分の人生の指揮を自分の手で執ろうとする人の姿が、そこに重ねられている。
7歳から俳優としてカメラの前に立ち、数々の役を生きてきた蒔田彩珠。しかし、その道を自らの意思で選んだのは、高校を卒業するときだった。印象的な眼差しの奥に確かな意志を宿す24歳は、いま、自ら選んだ人生をどのように形づくろうとしているのか。

EMPORIO ARMANI 2026-27年秋冬コレクション
“かっこいい服を着ると、自然とかっこつけたくなる”
今季のコレクションは、ツイードやヘリンボーンといった英国の伝統素材を背骨に、洗いざらしのデニムやクリーンな白シャツを織り交ぜた構成だ。
この日の蒔田がまとったのは、白いブラウスに、オーバーサイズのジャケットとパンツを合わせたマニッシュな装い。仕上げに、クラシカルな帽子を添えた。普段から古着をよく着るという蒔田にとって、ヴィンテージを思わせるムードはどこか親しみのあるもの。一方で、端正な仕立てと凛とした佇まいが、インタビュー中のくったくのない笑顔とは異なる大人びた表情を引き出していた。

俳優・蒔田彩珠。10歳で出演した是枝裕和監督のドラマ『ゴーイング マイ ホーム』が、その後の俳優人生を大きく動かす転機となった。以降も是枝作品への出演を重ね、望まぬ妊娠をした中学生を演じた映画『朝が来る』では、繊細かつ鮮烈な演技が高く評価され、数々の映画賞を受賞。難役を自然体で演じる表現力には、蒔田にしか生み出せない存在感がある。

——本日のルックを実際に着てみていかがでしたか。
白いブラウスは普段あまり選ばないようなデザインだったので、新鮮でした。ジャケットはメンズっぽくて、少しオーバーサイズ。私は兄が二人いて、普段から服を共有することもあるくらいメンズライクな服が好きなので、すごく好みでした。帽子もあの形は初めてだったんですけど、被ってみたらしっくりきて。「意外といけるじゃん」って(笑)。普段の撮影では、女性らしいフリルや、やわらかいトーンの服を着ることが多いんですよ。だから今日のようなかっこいい服を着ると、自然と表情も変わって、ちょっとかっこつけたくなりました。
——俳優の仕事でも、衣装によって役へのスイッチが入ることはありますか。
すごくあります。まず台本を読んで、そのあと顔合わせや衣装合わせになるんですけど、そこで用意していただいた衣装を初めて着ると、自分のなかにあった役の解釈とつながるんです。「こういう役なんだ」って、輪郭をよりはっきり掴めるというか。毎回衣装にはすごく助けられていますね。特に時代物は、衣装を着ることで話し方や立ち居振る舞いまで変わります。最近では『キングダム』の撮影でも、衣装を着ることで普段の自分から切り替えることができました。
——プライベートでは、ファッションとどんなふうに向き合っていますか? 服によって気分が変わることもありますか。
ありますね。服のジャンルをあまり絞っていないので、会う相手や行く場所に合わせて、女性らしい服にしたり、メンズライクにしたり。服を選ぶところから、その日の自分の気持ちをつくっていく感覚があります。今年は海外へ行く機会が多くて、日本ではあまり着ないような、少し挑戦的な服も買うようになりました。個性的なタンクトップやスカート、普段はあまり履かないヒールも増えましたね。ヒールを履くと背が高くなるぶん、自然と堂々と振る舞えるというか。かっこいい女性になった気分で、いつもよりちょっと強気になっているかもしれません(笑)。

“選択を与えられた時、やっぱり私はこの仕事が好きなんだと思った”

——今季のテーマ「マエストロ」に、エンポリオ アルマーニは、完成された巨匠だけでなく、自分の意思で道を選び、そこへ向かっている途中の人、という意味を込めています。これまでに「これは自分で決めた」と強く感じる選択はありますか。
高校を卒業するとき、俳優を職業として続けるかどうかを決めたことです。役者を始めた頃はまだ子どもだったので、母の意思もあったんですけど、高校卒業のタイミングで「ここから先はどうするか自分で決めていいよ」と言われて。俳優を続ける、と選択したんです。
——そのとき、俳優を続けたいと思ったのはなぜでしょう。
ちょうど朝ドラの撮影が終わった頃だったんですよ。約一年間、同じ役を演じ続けることも、その役が背負っているものと向き合うこともすごく大変で……。でも、すべてを終えたあとに残ったのは、解放感よりも「また新しい役を演じたい」という気持ちでした。そこで改めて、「やっぱり私はこの仕事が好きなんだ」と気づいたんです。
——作品ごとにいろんな監督や俳優と出会う機会も多いと思いますが、自分の考えや、俳優として進む道に大きな影響を与えた人や言葉はありますか。
やっぱり、是枝裕和監督との出会いは大きいですね。以前、ある番組に出演したとき、是枝監督から「作品を好き嫌いせず、いろいろな役に挑戦してほしい」というメッセージをいただいたんです。どうしても自分に近い役や、演じやすそうな役を選びたくなることもあるんですけど、その言葉を聞いて、いままで経験したことのない挑戦的な役にも好き嫌いせず向き合っていこうと思いました。

“自分の芯になる部分は、どんなときもきちんと持っていたい”

——役を演じる上で、監督や共演者の意見を聞くことと、自分の意思を持つことは、どのように両立していますか。
台本を読んで、自分なりに「こういうシーンだ」と考えて現場へ行きます。でも、監督やほかのキャストの方と考えが違ったときは、まず相手が言ったことをやってみる。そちらが正解なこともありますから。一度受け入れて、自分なりに解釈してみて、納得できたらそのままやる。どうしても納得できなかったり、自分の意見を伝えたいと思ったりしたときは、きちんと相談します。まずは聞いて、やってみることを大切にしています。
——その姿勢は、幼い頃から変わらないのでしょうか。
母の影響が大きいと思います。母は「人の話を聞かない人は成長しない」という考えなんですけど、私もその通りだなと思っていて。ただ、人の意見を受け入れることと、自分をなくすことは違うと思うんです。役によって性格まで変わってしまうこともあるので、自分の芯になる部分はどんな時もきちんと持っていたい。母とはすごく仲が良くて、話すと自然と素の自分に戻れるんですよ。そういう意味でも母は私のメンターですね。
——ほかにも役に深く入りながら、自分自身を保つために大切にしている時間はありますか。
猫と過ごす時間ですね。猫を飼うまでは、仕事から帰るとすぐに寝て、次の日も家を出るぎりぎりまで寝ていたんですけど、最近は少し余裕を持って起きて、まずは猫と触れ合うようになりました。家を出るときには「すぐ帰ってくるからね」と声をかけて、早く帰るためにも頑張ろうって(笑)。家でいろんなことを考えちゃうときに、猫が三匹、床で好き勝手にゴロゴロしているのを見ると、「私もまあいっか」って、一緒に寝転がれるんですよ。猫たちが自由に過ごしているから、私も自然と力が抜けてます(笑)。
——仕事を続けるうえで、自分に課していることはありますか。
身近な人への感謝を忘れないことです。応援してくれる家族や友人、マネージャーさんなど、距離が近いほどつい気が抜けてしまうこともあるけど、その人たちがいてくれるからこそ、私はこの仕事ができているじゃないですか。だから感謝の気持ちは、ずっと忘れずにいたいです。
——最後に、この先挑戦したいことを教えてください。
カンヌへ行きたいです。いつか、自分が出演した作品で行けたらいいなと思っています。

「いつか、自分が出演した作品でカンヌへ行きたい」と、迷いなく語った蒔田。落ち着いた佇まいと、ふとした瞬間に弾ける屈託のない笑顔。その内側には、自分の進む先をしっかりと見据える強さがある。

(プロフィール)
蒔田彩珠(まきた・あじゅ)2002年8月7日生まれ、神奈川県出身。7歳から俳優として活動を始め、2012年、是枝裕和監督のドラマ『ゴーイング マイ ホーム』に出演。その後、『海よりもまだ深く』『三度目の殺人』『万引き家族』など是枝監督作品に参加する。映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で第43回報知映画賞新人賞、映画『朝が来る』で第44回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか多数の賞を受賞。連続テレビ小説『おかえりモネ』など数々の作品に出演。今年では、ドラマ『リブート』、映画『キングダム 魂の決戦』、W主演映画『ルックバック』に出演し、W主演を務めたPrime Originalドラマ『地雷グリコ』は11月23日配信予定。さらに、12月25日には『BYE BYE LOVE探偵はBARにいる』が公開予定となっている。

Photographer : Shun Komiyama
Styling : Masahiro Hiramatsu
Hair & Make – up : Chika Ueno
Interviewer : Mihoko Saito

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