【EMPORIO ARMANI】ダンサー/アーティスト・石井蘭が「好き」の先で振るタクト

マエストロ。エンポリオ アルマーニが2026-27年秋冬コレクション“Maestro”で描いたランウェイの舞台は、指揮者を目指す学生たちが集う音楽学校。道を究めた人への敬意とともに、自分の人生の指揮を自分の手で執ろうとする人の姿が、そこに重ねられている。
3歳からダンスを始め、ふたつのガールズグループでの活動を経て、2026年、新たな道を歩み始めた石井蘭。悩み、迷いながらも、最後は自分の「好き」に従ってきた22歳は、長く身を置いたグループを離れ、「石井蘭」という一人の表現者として、その手で自らの人生のタクトを握り、踏み出そうとしている。

EMPORIO ARMANI 2026-27年秋冬コレクション
“着た瞬間、一気にスイッチが入りました”
今季のコレクションは、ツイードやヘリンボーンといった英国の伝統素材を背骨に、洗いざらしのデニムやクリーンな白シャツを織り交ぜた構成だ。
この日の石井は、深みのあるパープルとブラックを基調にした、オーバーサイズの装いに身を包んだ。柔らかな素材が生む軽やかさと、モードなシルエットの緊張感。普段はあまり履くことがないというハイヒールを合わせると、いつもの朗らかな表情は静かに消え、表現者の眼差しへと変わった。

華奢な佇まいからは想像もつかない、ダイナミックで力強いダンス。石井蘭のパフォーマンスは、高度な技術と、指先や視線、表情の細部にまで神経を行き届かせた表現によって形づくられている。ひとたび踊り始めれば、その存在感は見る者の目を一瞬で奪う。彼女にとってダンスは「いちばん自分を表現できる場所」なのだ。

——今日の衣装を最初に見たとき、どんな印象を持ちましたか。
パープルやブラックの落ち着いた色合いで、シルエットもオーバーサイズ。普段はカジュアルな服をよく着ているので、すごく新鮮でした。素材は柔らかくて、アウターを重ねてもごわつかず、さらっと着られたのも印象的です。全体的にモードな装いだったので、着た瞬間、気持ちを研ぎ澄ませるようなスイッチが入りました。やっぱり服が持っている力ってすごいですね。
——普段も服によって気持ちを切り替えることはありますか。
あります。というよりも、毎日服を選ぶところから、自然と一日のスイッチを入れている気がします。服装やメイクで結構気分が変わるタイプなので、仕事へ行くときもあまりラフすぎる格好では行かないようにしているんですよ。例え、ダンスのレッスンだけだとしても、ダル着じゃなくて、動きやすくて気分が上がるものを着たり。最近はなんの変哲もない白いTシャツにハマっています。22歳になって、白いTシャツとボトムだけでもキマるような、ヘルシーな服装が似合う女性になりたくて。シンプルすぎるのも難しいとは思うんですけど、さらっと着こなせていたらかっこよくないですか?

“最後に背中を押すのは、自分の「好き」に対するまっすぐな気持ち”

——石井さんのダンスもダイナミックなのに繊細で、思わず見惚れるかっこよさがあります。その「かっこよさ」は、どこから生まれるのでしょう。
上手く見せたいとか、スキルを見せたいということは、あまり考えていないんです。ダンスは、私がいちばん自分を表現できる場所だから、ステージに立つときも、ただ伝えたいという一心で全力で踊る。本当にそれだけです。
——上手く見せることよりも、伝えること。その全力さが、石井さんのかっこよさにつながっているんですね。
そうかもしれないです。ダンスには、普段の生活ではなかなか感じられないパッションや、エネルギーの強さがあると思っていて。私自身、踊っているときはもちろん、誰かのダンスを見ているだけでも、すごくパワーをもらうんですよ。だから私が踊ることで、見てくださる方の日常に少しでも前向きなパワーを届けられたら嬉しいですね。
——今季のテーマ「マエストロ」に、エンポリオアルマーニは、完成された巨匠だけでなく、自分の意思で道を選び、そこへ向かっている途中の人、という意味を込めています。石井さんはこれまで、新しい環境へ進む決断を重ねてきたと思いますが、大きな選択をするとき、最後に背中を押すものは何でしょう。
私は心配性なうえに、すごく悩む性格で、何かを決めるときは、いろいろな人に相談したり、親にもたくさん話すんですよ。でも最終的に決断する時、背中を押すのは『やっぱり自分はこれが好きなんだ』というまっすぐな気持ち。結局は自分の気持ちに従わないと、あとで後悔すると思うんです。いましかできないこともきっとあるから。
——その選択を支えてくれた言葉はありますか。
私のまわりには、自分で決めた自分の道を歩いている年上の方が多くて。そのなかに、『自分のまっすぐな気持ちとぶつかりながら進んだほうが、蘭ちゃんらしい』と言ってくれる方がいて、その言葉にはすごく支えられていますね。以前ご一緒したダンサーの仲宗根梨乃さんからいただいた、『自分が持っているパワーを無駄にしないでほしい。自分のことを大切にしてほしい』という言葉も心に残っています。梨乃さんご自身も、自分の好きなものも大切にしながら仕事をされている方なので、私にとっては憧れの人のひとり。梨乃さんのような生き方をしたいなと思っています。

“どんなときも、偽りのない全力の自分を見せたい”

——2026年からフリーとなり、新しい一歩を踏み出したいま、これからも守り続けたいことはありますか?
この世界に入ってから、ずっとまっすぐな気持ちで走り続けてきました。ステージに立つ瞬間だけではなく、リハーサルやレッスンなど、一つの表現を作り上げる過程から常に全力で向き合ってきたつもりです。活動を続けるなかでは、いろいろな声に触れて、苦しくなったり、迷ったりすることもありました。でも、その声によって、自分の『好き』という気持ちまで曲げたくない。私にとって、踊ることや歌うこと、表現することは、何よりも好きで、大切にしたいものだから。これからも変わらず、どんなときも自分の気持ちに嘘をつかずに、全力で臨みたいです。
——その一方で、成長させたい部分は?
初めて事務所に所属せず、フリーで活動しているんですけど、まわりで支えてくださる方がいることは、本当にありがたいです。ただ、そのなかで、自分らしさをもっと伸ばしていかなければいけないとも感じています。10代の頃は「まだ若いから」と言っていただくことも多かったけど、もう22歳。甘えていられません(笑)。自分のなかにもこれまでとは違う感覚が生まれてきていて、これまで培ってきたものに頼るだけでじゃなくて、いまの自分にしかない強みをもっと貪欲に見つけていかないとなって。きちんと武器として示せるところまで磨いていきたいですね。
——最後に、これからどのような石井蘭を見せていきたいですか。
これまではグループで活動することが多くて、何かに染まることも好きでした。でもこれからは、「自分はこういう人間なんだ」ということを、もっと表現していきたい。しばらく離れていた演技にも、改めて挑戦してみたいですし、私がこれまで選んできた道を、皆さんに納得してもらえるようなものを発信していきたいですね。今までとは違う形になると思いますが、その姿を楽しみにしていただけたら嬉しいです。

迷わずに決断してきたわけではない。ときに不安と向き合いながら、それでも最後は、自分のなかにある「好き」を信じる。その選択の積み重ねが、現在の石井蘭をつくってきた。グループという大きなアンサンブルを離れたいま、人生を指揮するのは、ほかの誰でもない自分自身だ。自らの感覚を信じて突き進む、その姿こそが石井蘭の体現する“Maestro”なのだ。

(プロフィール)
石井蘭(いしい・らん)2004年8月7日生まれ、埼玉県出身。3歳からダンスを始め、ガールズ・パフォーマンスグループ「Girls²」、ガールズグループ「ME:I」のメンバーとして活動。2026年よりフリーで新たな活動をスタートし、ダンスを軸にファッションやモデルなど表現の場を広げている。

photographer : Shun Komiyama
Styling : Masahiro Hiramatsu
hair : Kurushima
make-up : Eriko Mori
interviewer : Mihoko Saito

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