【EMPORIO ARMANI】華道家・大塚理航 美しさは、埋めないことから生まれる

マエストロ。エンポリオ アルマーニが2026-27年秋冬コレクション”Maestro”で描いたランウェイの舞台は、指揮者を目指す学生たちが集う音楽学校。道を究めた人への敬意とともに、自分の人生の指揮を自分の手で執ろうとする人の姿が、そこに重ねられている。
1991年生まれ、いけばなの流派・古流かたばみ会の副家元。2026年3月、東京ミッドタウンで開かれたFlower Art Awardで、いけばな界からは10年ぶりとなるグランプリを獲った華道家・大塚理航。その指揮は、花を生ける手元で、すでに始まっているのかもしれない。

EMPORIO ARMANI 2026-27年秋冬コレクション
“着た瞬間にキリッとする。服はそんな力を持っている”

今季のコレクションは、ツイードやヘリンボーンといった英国の伝統素材を背骨に、洗いざらしのデニムやクリーンな白シャツを織り交ぜた構成だ。
この日の大塚は、ベージュのジャケットを羽織った。撮影を終えたばかりの本人に、まず今日の装いから聞いた。

華道家の大塚理航は、いけばなで第一に守ることを「植物を輝かせること」と言い切る。東京都出身。大学卒業後に個人で事業を起こし、2017年にいけばなを始めた。250年以上の歴史を持つ古流の流派、古流かたばみ会で九世家元・大塚理司に師事している。2026年7月には、フランスで毎年開かれるアート・フローラル国際コンクールに日本代表として出場し、4位に入った。

――撮影、お疲れさまでした。今日の衣装を最初に見たとき、どんな印象でしたか。

「恥ずかしながら、洋服には疎いんです。それでも着た瞬間に、キリッとするといいますか、気分が上がるといいますか。服が持っている力を感じるような思いでした。上に羽織ったものの色合いや、自然素材のような風合いも印象に残っています」

――普段はどんな服を選ぶことが多いですか。

「人に見られる仕事なので、失礼のないように、シャツを中心にしたきれいめな格好が多いです。色は黒と白が好きで、派手な色はあまり着ません。ただ、花を生ける仕事のときは基本的に着物です。パフォーマンスは人に見られる場なので、そこでは普段選ばないような華やかな着物をあえて着ます」

――今日の衣装をプライベートで着るなら、どこへ出かけますか。

「華やかな世界に見えると思うんですけど、山に入って自然のものを刈り取ったり、生き物が相手なので水や泥が服に付いたり、裏では結構泥臭い場面が多いんです。そういう場面では着ていけないなと。なので、今日の服を着るとしたらお出かけですね。デートとか、映画を見に行くとか、そういうところに着ていけたら素敵だと思います」

――枝や花を、自分で刈りに行くんですか。

「花というより、枝や蔓植物ですね。自然の中へ直接入って、五感を目一杯使って素材を調達する。そこから生け花は始まっているなと感じます。
勿論刈り取る時はその土地の方の許可をいただきます。なので、そのうち自分で山を買いたいなとも思っています」

“間の取り方が寂しいと映ってしまって”

――7月の世界大会は、洞窟の空間にバラ1,000本で作品を組むコンクールだったそうですね。いけばなを、そのまま持ち込んだんですか。

「華道家がフラワーデザインの世界大会に挑戦するのは、異例の試みでした。いけばなは世界に通ずると思っているので、いけばなの良さをそのまま表現したつもりだったんですけど、向こうのデザインとしての評価では、間の取り方が寂しいと映ってしまったようです。

1位から3位の国は、大きな洞窟の空間を埋めるように作りこんでいました。私は間を生かして、主役になる花が象徴的に映るように構成したんですけど、その間が何もなくて寂しい、と評価された。結果は4位でした」

――間の取り方は、日本と西洋でそれほど価値観が違うものですか。

「わかりやすい例が、銀閣寺とヴェルサイユ宮殿です。銀閣寺には左右対称の場所がなくて、自然と共存するという考えで作られている。西洋は左右対称だったり、植物を動物の形に刈り込んだトピアリーだったり、自然を支配する価値観が中心にある。それがそのまま、いけばなとアレンジメントの違いにも出ています」

――大会には、また挑戦しますか。

「したいですね。評価軸の違いで4位になったので、次はガッツリ1位を狙いにいきたい。ただ、同じ人は3年間出られないルールがあるので、その3年間で自分のいけばなの技術を高めて、向こうに合わせて、もう一度結果を出せればと思っています」

“人生は一度きりだから、やりたいことをやりたかった”

――今季のテーマは「マエストロ」、自分の人生を自分で指揮する人です。これまでに、自分で強く決めた選択はありますか。

「人生は常に選択の連続であり、それが今の自分を形成しているのだと思います。それでも僕の中で大きな決断というのは2つありました。
ひとつは大学を卒業した後、就職をせずに個人で事業を立ち上げたことです。周りからは「一般就職してからでもいいんじゃないか」と言われましたが、
人生は一度きりだから、やりたいことをやりたかった。
もうひとつは大学4年のとき、自転車で鹿児島から北海道まで、野宿しながら3週間かけて縦断したことです。太陽が沈んだらテントを張って寝て、陽が上がったらまた走る。向かい風がすごくて、踏んでも進まない日もあるし、雨の峠もあった。それでも一歩一歩ペダルを漕げば確実に進んでいる、という経験になったので、今でも苦しいとき、たとえばYouTubeの登録者が伸びないときでも、やり続ければちゃんと一歩進めると思える。根拠のない自信は、あのときにつきました」

――これまでの作品のなかで、「これが最高だ」と思えたのはどれですか。

「常に最高を生けたいとは思っているんですけど、心の底から、というものにはまだ出会ったことがないんです。逆に、だからこそ追い求めて、いつか出会いたい。
植物は一本一本形が違うので、見返すと、もっといい植物と出会えていたら表現は絶対に違っただろうなと思う。疲れている時に生けた作品は、後で見たときに少し疲れが出ているな、と気づくこともある。
自分の心情やコンディションが花に出てしまうからこそ、目の前の植物と自分の心身とがカチッとハマった時に最高の花が生けられるんじゃないかと思っています」

――いけばなに向かうとき、自分に課しているルールはありますか。

「第一に、植物を輝かせることです。自分がこの形を作りたいと思っても、植物がその形を拒否しているようなら、無理に曲げるのはエゴになってしまう。その時々の植物の表情を、いちばん大切にしています」

――いけばなは、花でなくてもいい、という言葉を伺いました。どういうことでしょうか。

「例えばペットボトルを作品にすることもあります。生きている花を生けるから生け花だ、と思う方も多いですが、いけばなはその人の持つ生命観を、花やモノに託して表現する行為だと考えています。生き物には水が必要ですよね。
空のペットボトルに水を入れてたくさん重ねれば、それは生命を表す作品になり得る。少しひしゃげたペットボトルの形は、この一本にしかない。それは一本の切り花に出会ったのと同じ、という考え方です。根本にあるのは、いけばなは祈りの所作で、花やモノに想いを託して表現する、ということなので」

――最後に、この先挑戦したいことを教えてください。

「今回のモデルも、僕の中では大きな挑戦でした。そういう意味では、いけばなを通じてどんなことにも積極的に挑戦し肥やしにして、自分だけの華を咲かせたい。
そして華道家・アーティストとして世界中の人に知ってもらうことが目標です。世界で見ると、いけばなという日本の誇れる文化はまだ全然認知されていないんです。
自然との共存や命のありがたみを、いけばなの価値観を通して世界へ発信し、この素晴らしい文化を守り伝えられる人になりたいですね」

「僕は、いけばなは世界平和に通じていると思っているんです」

いけばなを始めてから、まだ10年に満たない。自分の人生の指揮を自分で執る人に、”Maestro”の服はよく似合う。

プロフィール
大塚理航(おおつか りこう)
1991年、東京都生まれ。250年以上の歴史を持つ古流の流派・古流かたばみ会 副家元。2017年にいけばなを始め、九世家元・大塚理司に師事。
全日本いけばなコンクールでは文部科学大臣賞や最優秀新人賞など数々の受賞歴を持つ。2026年3月、Flower Art Award「街」を活けるアワードでグランプリを受賞し、7月にはフランスのアート・フローラル国際コンクールに日本代表として出場、ベスト4を獲得。YouTubeチャンネル「りこう先生」でいけばなの魅力を発信している。

Photographer : Yoshitake Hamanaka
Styling : Masahiro Hiramatsu
Hair & Make–up : Shutaro
Word : Tsuzumi Aoyama

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