マエストロ。エンポリオ アルマーニが2026-27年秋冬コレクション“Maestro”で描いたランウェイの舞台は、指揮者を目指す学生たちが集う音楽学校。道を究めた人への敬意とともに、自分の人生の指揮を自分の手で執ろうとする人の姿が、そこに重ねられている。
EMPORIO ARMANI 2026-27年秋冬コレクション
“自分のテンションは、洋服で決まる”
2026-27年秋冬コレクション”Maestro”が発表されたのは、今年2月のミラノ。ランウェイの舞台に見立てられたのは、指揮者を目指す学生が集う英国の音楽学校だ。エンブレム付きのブレザーにタッセルローファー、ツイードやヘリンボーンといった英国トラッドの装いが、タキシードや燕尾服と行き交う。
撮影で白井がまとったのは、今季のキーであるテキスタイルのひとつ、千鳥格子のジャケット。黒のニットカラーが襟元を引き締め、淡いブルーのシャツと、ワイドなトラウザーズライクなデニム。リラックスして見えて、それでいて洗練されている。本人がふだんから意識しているというスタイルにどこか響き合う装いだ。

スケートボーダーの白井空良。自分の進む道を自分の意思で選んできたひとりだ。5歳でスケートボードを始め、2023年に世界選手権を、2024年にX Gamesを制した24歳。ふだんはハイブランドを着ないという白井は、写真のなかの自分を「俺じゃなかったですけど」と笑った。
――撮影、お疲れさまでした。新作のルック、着てみていかがでしたか。
ずっとスケートボードをしてきたので、ハイブランドは普段着ないんですよ。転んだら汚れたり破れちゃうし(笑)。だから、自分が着こなせるかって心配だったんですけど、スタッフのみなさんがすごくかっこよく仕上げてくれて。撮ってもらった写真を見たら、俺じゃなかったですけど(笑)、すごく楽しかったです。
――白井さんは以前、スタイルのかっこよさも含めて点数が決まるのが、ほかの競技にない魅力だと語っていました。普段、服はどう選んでいますか。
服で自分のテンションが決まるところは結構あります。服をミスった日はテンションが下がるし、この服を着てるから映像を撮りたいなと思う日もある。
スケーターってみんな同じような服装に見えると思うんですけど、そこを少し変えたいと思っているんです。少しダボダボだけど綺麗なシャツを着るとか、ちょっとトラッドっぽく寄せるとか、そういうことは意識しています。
――街中をかっこよく滑る姿がスケートボードの原風景だ、と話していたこともありますね。白井さんにとって「かっこいい」って、どういうことですか。
スケートボードって、みんなスタイルが違うんです。滑りがめちゃくちゃ上手くても、服がよくなかったらかっこよく見えない。逆に、技は全然上手くないのに、着こなしがかっこいいから認められてるスケーターもいっぱいいる。
ストリートのプロは、映像作品のなかでいかに自分をかっこよく見せるかが勝負なんですよ。彼らと話すと、結局は服と、あとは映像でどう見せるかだよねって言う。上手さだけで決まらないところが、スケートボードの面白さかなって思います。
――白井さんの代名詞は、自分の名前がついたオリジナルトリック「ソラグラインド」です。世界大会の公式サイトが「大会レベルで安定して決められるのは白井だけ」と紹介する技です。そういう誰もやっていない技には、どうやって入っていくんですか。
誰もやってない技って、めちゃくちゃ怖いんですよ。怖いから誰もやってないし、みんながイメージできないからやってないわけです。でも、できないって思うと本当にできない。だから、簡単でしょっていう気持ちで臨むしかないんです。
1年半、その技にしか取り組まなかった時期もあります。もうすぐ実現しそうというときに怪我をして、一からやり直したこともある。それでも、新しい技は自分が作っていかないといけないと思っているので。

“できないって思うと本当にできない。だから、簡単でしょっていう気持ちで臨むしかないんです”
――正直に言うと、僕のような素人には、技のときに板がどう回っているのかわからないんです。白井さんの滑りは、どこを見ればいいですか。
自分のシグネチャーは、板が見えない方向に身体を回して、見えないところで足をひっかける動きなんです。後ろ向きから入って、身体が一回転、板も一回転して、レールにかけてスライドして、降りるときにまた一回転。
一瞬で終わるので、考えていられるのはアプローチまでですね。あとはもう、今までやってきたことに任せる、ほとんど神頼みです。ここでかけたら見えないよね、っていうところでかけていくのが好きなんですよ。怖いし、みんなイメージできないから、真似する人も少ない。それが自分の強みだと思っています。
――今季のテーマ「マエストロ」に、エンポリオ アルマーニは、完成された巨匠だけでなく、自分の意思で道を選び、そこへ向かっている途中の人、という意味を込めています。白井さんに、その感覚はありますか。
ちっちゃい頃からひねくれてて、誰もできない技をずっとやりたいと思ってきたので、それは今も変わらないです。純粋に人を驚かせたい、自分の技でみんなを翻弄したい。会場のみんなが自分の技を見て驚く、あの瞬間が快感で、楽しみで。活躍しているときも、してないときも、ずっと同じ気持ちでスケートボードをやってきました。

“みんなが自分の技を見て驚く、あの瞬間が快感”
――オリンピックは東京で9位、パリで4位でした。次は2028年、ロサンゼルスです。なぜ白井さんはオリンピックにこだわるんですか? あわせて、これからの目標を聞かせてください。
もともと、子供の頃から大会を目指してやってきたんですよ。だから、大会でやってきたことを無駄にしたくない気持ちがあって。次のオリンピックで金メダルを取って、それからストリートのフェーズに入りたいと思っています。
ひねくれてるんで、2位とか3位なら別にいらない、勝たないと意味ないっしょって思っちゃう。3位の人って、誰も覚えてないじゃないですか。優勝した人はみんな覚えてる。だから金メダルしかいらないんです。
でも、スケートボードのシーンにおける一番かっこいいものは、やっぱりストリートだと思っているし、大会ばっかりになったら、そこで終わっちゃうなとも思っていて。自分のやってきたことをやり終えたら、真剣にストリートに臨みたいです。

スケートボードの一番のかっこよさはストリートにある。そう知りながら、まず競技の頂点という自分のルーツは譲らない。誰もやらない技は難しい。だからこそ自分が取り組む価値があると、成功するかどうかもわからない技に1年半をかけ、何度も地面に打ち付けられながら、挑戦をやめない固い意思。
白井が進んでいるのは、誰も通ったことのない道だ。そこに本当に道があるのかは、まだ誰も知らない。それでも突き進んできたからこそ、その道は、白井空良にしか通れないマエストロへの道になる。

(プロフィール)
白井空良(しらい・そら) 2001年11月3日生まれ、神奈川県相模原市出身。5歳でスケートボードを始める。2023年ストリート世界選手権(東京)優勝、2024年X Games千葉優勝、パリ五輪ストリート4位。2025年ワールドスケートボードストリート北九州グランドファイナル優勝。代名詞は自身の名を冠したオリジナルトリック「ソラグラインド」。
photographer : Maciej Kucia
Styling : Masahiro Hiramatsu
hair & make-up : Shutaro
interviewer : Tsuzumi Aoyama
