【EMPORIO ARMANI】スノーボーダー・村瀬心椛、世界初の技は「勘違い」から生まれる

マエストロ。エンポリオ アルマーニが2026-27年秋冬コレクション“Maestro”で描いたランウェイの舞台は、指揮者を目指す学生たちが集う音楽学校。道を究めた人への敬意とともに、自分の人生の指揮を自分の手で執ろうとする人の姿が、そこに重ねられている。
今年2月のミラノ・コルティナオリンピックで、日本スノーボード女子初の金メダルを獲った村瀬心椛、21歳。その指揮は、雪の上ですでに始まっているのかもしれない。

EMPORIO ARMANI 2026-27年秋冬コレクション
“可愛いのとかっこいいのと、どっちも組み合わさってる”

今季のコレクションは、ツイードやヘリンボーンといった英国の伝統素材を背骨に、洗いざらしのデニムやクリーンな白シャツを織り交ぜた構成だ。

この日の村瀬は、大きな襟のシャツに太めのデニムを合わせ、軽く着崩して纏った。迷った末に「自分っぽいほう」を選んだという。撮影を終えたばかりの本人に、まず今日の装いから聞いた。

スノーボーダーの村瀬心椛。自分の世界観を、自分でつくってきたひとりだ。岐阜県出身、2004年生まれ。4歳でスノーボードを始め、中学2年、13歳のときに、女子として世界で初めて3回転半の大技「ダブルコーク1260」を大会で成功させて史上最年少でX Gamesを制し、世界の注目を集めた。以来、ビッグエアとスロープスタイルの2種目で世界の第一線を走り続けている。

――撮影、お疲れさまでした。衣装に袖を通したときの、率直な印象から聞かせてください。

「まず、かっこいい。ショートパンツのほうも、可愛いのとかっこいいのと、どっちも組み合わさっていて着やすかったです。この青色のジャケットも、デザインがものすごくいいなって。こういう服は着たことがなかったので。大きい襟のシャツのほうは、普段から白シャツはよく着るので、一番馴染んでるなって思いました」

――普段の服選びで「これが自分」という譲れないものはありますか。

「こだわりは、自分がいかに気持ちよく着られるかみたいなところで。今までしてこなかった肌見せも、かっこよさを合わせる感じで取り入れ始めました。あとは、スノーボーダーあるあるというか、太めのデニムですね。スノーボードって見せる競技なので、服装にはものすごくこだわっています。自分らしい服装はもちろん、メイクもすごく気をつけてます。かっこいいなって思われたいので、強いメイクのほうが自分に合ってるのかなって」

“その勘違いがめちゃくちゃ大事。勇気が生まれるから”

――滑りでも、手の位置や着地の姿勢まで「自分だとわかる形」にこだわっているそうですね。誰もやっていない技に、世界で最初に挑み続けるのはどうしてですか。できるかどうか、誰にもわからないのに。

「技って、一人が決めたら、『私もできるんだ』っていうのをみんな勘違いして、できるようになるんですよ。でも、実はその勘違いがめちゃくちゃ大事。勇気が生まれるから。

私も3回転半を中2で決めて、そこから半回転増やすのに、壁がでかすぎて6年ぐらいかかったんです。でも世界で決めたら『女子でもできるんだ』ってなって、その年に一気にみんなできるようになった。一番最初にやるのって勇気がいるし、大変だけど、それができたらかっこいいし、自分がやりたいからやっている。それが答えです」

――それは、名前が残るからとか、そういうことでもなくて。

「そうです。ただ自分がやりたいから、一番にやる」

――大会のときは、どうやって集中力を高めているんですか。

「大会のときは、めっちゃテンションが上がる、テンポの速い洋楽を聴いてます。でも、スタートする前にはもうゾーンに入っていて、聴いてるけど無音に感じている状態です。

大会になると、ペットボトルの水を4本ぐらい飲むんですよ。寒いけど、それぐらい燃え上がってる状態。オリンピックで金を取ったときは、一番入りまくってましたね。いまは自分でスイッチを切り替えられるようになりました」

――金メダルを獲ったいまも、「まだ未完成だ」と感じる部分はありますか。

「いつも足りないなって思うのは技術面ですね。ちゃんと決めるところで決めないといけないのに、たまにそこができないことがある。

あとはメンタル面。結構自分を追い込んでしまうので、まず『スノーボードを楽しむ』を心がけて、メンタルも自分で整えられるようになれば、もっと結果がついてくるんじゃないかなって。

自分はまだまだ未完成なところだらけです。これで完成、と思うことは……多分ないと思います」

――2つの種目のことも教えてください。大きなジャンプ台から跳んで一発の大技を競うのがビッグエア、ジャンプやレールが連続するコースを滑り降りて全体の構成を競うのがスロープスタイル。ミラノではビッグエアで金、スロープスタイルで銅と、両種目でメダルを獲りました。この2つは、村瀬さんにとってどう違うんですか。

「ビッグエアが迫力なら、スロープスタイルはアートだと思ってます。コース全体をひとつの作品として滑りきる種目で、コースを最初に見たときから、自分の滑りを想像してワクワクするんですよ。あそこであの技ができたら最高に楽しいだろうな、って。

だから、思い入れがいちばん強いのはスロープスタイルなんです。ミラノでは金メダルに届かなかったので、一番の目標は、2030年にフランスで開かれる次のオリンピック。スロープスタイルで金を獲って、ビッグエアと合わせて2冠にすることです」

――金メダルから半年と少し。この間、いちばん時間を使ったのはどんなことですか。

「人と会っています。自分ひとりではここまで来られていないので、サポートしてくださった皆さんに挨拶しに行きました。メダルは一番に家族に見せたくて。お父さんは会場に来てくれたんですけど、お母さんは来なかったので、お母さんにまず見せに行きました」

“まだまだ道は続いてると思います”

――今回のテーマの「マエストロ」は、いまのご自身に合っている言葉だと感じますか。

「ここまで来られてるのも一人ではないし、自分も本当にゼロからやり始めてここまで来てるので、マエストロっていう言葉は、私にすごい合っていると思います。

一人前になるためには努力とか、修行っていうか、たくさんの練習が必要です。その先に、自分なりの世界観が出来上がってくる。そこまで来るのにはすごく時間がかかったし、いまでも練習をしながら、自分にしかない輝いているところってなんだろう、ってしょっちゅう考えます。まだまだ道は続いてると思います」

――最後に。その「自分にしかないもの」って、どうやって見つけるんでしょう。

「周りのみんなに言ってもらえるから、『自分ってこういうところがあるんだな』って気づけるんです。自分の努力もあるかもしれないけど、周りのみんなの力があって自分がいることは、忘れちゃいけないと思います」

「大会では、人の滑りを見てないんですよね。自分の最高の技を出し切れば、絶対に獲れるので」。インタビューの中で、村瀬が迷いなく言い切った言葉は強く響いた。

誰とも比べず、自分の決めた滑りを、自分のやり方で出し切る。スロープスタイルの金メダルという、いちばん大きな目標はまだ残っている。自分の人生の指揮を自分で執る人に、”Maestro”の服はよく似合う。

プロフィール

村瀬心椛(むらせ・ここも) 2004年11月7日生まれ、岐阜県出身。4歳でスノーボードを始める。2022年北京オリンピック・ビッグエア銅メダル。2026年ミラノ・コルティナオリンピック・ビッグエアで金メダル(日本スノーボード女子初)、スロープスタイルで銅メダル。

Photographer : Maciej Kucia
Styling : Masahiro Hiramatsu
Hair & Make – up : Shutaro
Interviewer : Tsuzumi Aoyama

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